「未納料金が発生しています。至急ご連絡ください」
「総合消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせ」
「このまま放置すると法的手続きに移行します」
こうした不安をあおる文言が書かれたはがきやSMSを、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。これは典型的な「架空請求詐欺」です。
警察や消費者庁が注意喚起を繰り返し、インターネットでも事例が拡散されているにもかかわらず、被害は毎年発生しています。なぜ、これほど単純に見える詐欺がなくならないのでしょうか。
架空請求詐欺の基本は、相手を冷静にさせないことにあります。
- 「裁判所から通知が届いた」と書かれると、身に覚えがなくても「本当かもしれない」と不安になる。
- 「アダルトサイト利用料未納」と言われると、心当たりがなくても「家族や会社に知られたら困る」と焦ってしまう。
被害者の多くは「払いたい」と思ったわけではなく、「面倒なトラブルを避けたい」との一心で行動してしまいます。犯人はその心理を熟知し、ギリギリの恐怖心をあおる文言を使うのです。
架空請求詐欺は、実行者にとって驚くほど効率的な犯罪です。
- メールやSMSを一斉送信するだけで数万人に届く。
- 100万人に送って、たった10人が5万円払えば50万円の利益。
- サーバーやツールは闇市場で安価に入手できる。
つまり「数撃ちゃ当たる」方式で、ほんの一部でも引っかかれば大きな儲けになります。実際に摘発された詐欺グループのなかには、年間で数億円を稼いでいたケースもあります。
「もう誰も騙されないだろう」と思う人もいるかもしれません。しかし現実には、常に一定数の被害者が生まれます。
- 高齢者:ネットやスマホに不慣れで、公式と偽物の区別が難しい。
- 若年層:SNSやサブスク請求に慣れており、「知らない請求があっても不思議ではない」と感じやすい。
- 忙しい人:仕事中や移動中に確認せず反応してしまう。
世代交代があっても、必ず新しい「情報弱者」は生まれるため、ターゲットが尽きることはありません。
架空請求詐欺がなくならない最大の理由のひとつは、「摘発の難しさ」です。
- 国外サーバーや匿名回線を使って送信。
- 架空名義や第三者を利用した口座で入金を受け取る。
- 電話番号もレンタルSIMや使い捨て。
警察が動いても、逮捕できるのは現金を受け取る「受け子」など末端に限られ、黒幕までたどり着くのは困難です。リスクが低いのに利益は大きい――これが犯人を増長させます。
2000年代前半は「はがき」や「封書」が中心でした。近年は、次々と媒体が変化しています。
- SMS(ショートメッセージ)
- LINEやInstagramのダイレクトメッセージ
- 偽サイトに誘導して本物そっくりの請求書を表示
- AIで自然に生成された請求文面や合成音声の脅迫
こうした“アップデート”により、受け取った側は「本物かもしれない」と思ってしまうのです。技術の進歩が、詐欺の進化を後押ししているとも言えます。
架空請求詐欺は「泣き寝入り」を狙った犯罪でもあります。
- 「自分がバカみたいで恥ずかしい」
- 「少額だから警察に行っても仕方ない」
- 「家族に知られたくない」
こうした心理が働き、実際の被害額の多くは公になりません。詐欺グループは「まだまだ通用する」と学習し、次の犯行に及ぶのです。
ここまで見てきたように、架空請求詐欺がなくならないのは次の理由によります。
- 人間心理を突いた仕掛け(不安・恥ずかしさ)
- コストが極端に低い(大量送信で効率的)
- 被害者層が尽きない(世代交代しても被害者は生まれる)
- 摘発が難しい(黒幕にたどり着けない)
- 手口が進化する(媒体や技術を変える)
- 泣き寝入りが多い(被害が表に出にくい)
つまり、社会構造と人間心理の両面から“なくならない犯罪”として存在しているのです。
最終的に重要なのは「消費者自身の行動」です。
- 詐欺の8割はLINEに誘導されるので、LINEに誘導されたら疑う
- 心当たりがあるか冷静に確認する
- 連絡や入金を急がされても無視する
- 家族や消費生活センターに相談する
- 一人で抱え込まない
たとえ不安になっても、公式の窓口に自分から確認すれば解決します。逆に、相手の指示通りに連絡することが最大の落とし穴です。
架空請求詐欺は、インターネット黎明期から続く古典的な詐欺ですが、令和の時代になっても形を変えて生き残っています。その理由は、犯人にとって「ローリスク・ハイリターン」であり、被害者が常に存在し続けるからです。
私たちができる最大の対策は、「慌てず確認し、相談すること」。これを徹底すれば、架空請求詐欺の多くは未然に防ぐことができます。
「自分は大丈夫」と思っている人こそ、狙われるリスクがあります。常に冷静に、そして疑う目を持ち続けることが、被害を防ぐ第一歩なのです。