出典 経済産業省
MRJは三菱航空機が開発中の小型ジェット旅客機(リージョナルジェット機)で、アメリカの空港で試験飛行を実施するため、フェリーフライトが実施された。
2016年11月15日、MRJ90飛行試験機4号機(JA24MJ)は名古屋空港からアメリカへ向け出発した。
前回のフェリーフライトはロシア経由で空港間の距離が短かったが、今回、ロシア経由ルートは気象の悪化が予想されるため南回りルートとなった。
この南回りルートは1飛行距離が最大3,900kmとなる。
これは、MRJ90の航続距離「約3,310km」を超える。
はたして、MRJはどうやってこのロングフライトを成功させたのか?
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南回りルートのスケジュール
- フェリーフライト総飛行距離 14,000km
- 2016年11月15日名古屋空港発
- 2016年11月19日(米国時間2016年11月18日)
- ワシントン州グラント・カウンティ国際空港(米国)到着
出発空港 | 到着空港 | 距離 |
名古屋空港 | グアム国際空港 | 2,500km |
グアム国際空港 | マジュロ国際空港 | 2,500km |
マジュロ国際空港 | ホノルル国際空港 | 3,700km |
ホノルル国際空港 | カリフォルニア州サンノゼ国際空港(米国) | 3,900km |
カリフォルニア州サンノゼ国際空港(米国) | ワシントン州グラント・カウンティ国際空港(米国) | 1,200km |
合計距離 | 14,000km |
MRJのスペック
項目 | MRJ70 LR | MRJ90 LR |
航続距離 | 3,380km | 3,310km(3,770kmという情報も) |
最大離陸重量 | 40.2トン | 42.8トン |
燃料搭載量 | 1万2000リットル | 1万2000リットル |
航続距離
MRJ70 LRの方が航続距離が長いのは、同じエンジン、同じ燃料積載量だが、MRJ90 LRの方が機体が大きく、その分空気抵抗が大きいためと予想される。
燃料搭載量
MRJの最大搭載燃料量は3,200ガロンで、1ガロン=3.785リットルで換算すると、約1万2000リットルとなる。
最大離陸重量
一般的に乗客1人分の重量は64kg~73kgで計算する。乗客がいないフェリーフライトの場合、その分、機体重量が軽くなっている。
具体的には、MRJ70は78人乗りなので、約5トン軽く、MRJ90は92人乗りなので、約6トン軽くなっている。
機体重量が軽くなるため、航続距離も延びることになる。
航続距離延長の要因
MRJの航続距離は、最大3,310kmでホノルル空港~カリフォルニア州サンノゼ空港間3,900kmに届かない。
では、どうやって航続距離を延長したのだろうか?
燃料タンクの増設?
ボーイング737型機は燃料タンクを増設して航続距離を延長することができる。海上保安庁のYS-11も燃料タンクをキャビン(客室)に増設していた。
技術的に、燃料タンクを増設することは可能だが、MRJで実施されたかどうかはわからない。
MRJの貨物室は、キャビン(客室)の下ではなく、機体後部に設置されている。
MRJは空気抵抗を少なくするため機体を細くしている。
細い機体で室内高さを確保するために、キャビン(客室)の下部に貨物室を設置せず、機体後部に設置した。
軽量化?
飛行機は軽くなるほど航続距離が延びる。乗客が乗らず、また荷物もないのでその分、フェリーフライトは公称航続距離よりも伸びる。
場合によっては客室の座席も取り外して軽量化することもある。
偏西風(ジェット気流)の利用?
偏西風(ジェット気流)は300km/hに達することもある。この場合、飛行機の巡行速度は800km/h~900km/hなので、逆風だと500km/h、追い風だと1,200km/hになる。
太平洋の赤道付近(低緯度)は東から西へ貿易風が吹き、緯度30度以上の中高緯度帯では西から東へ偏西風(ジェット気流)が吹く。ハワイの緯度は北緯18度で、低緯度帯に属する。
つまり、ハワイ近辺では貿易風(東から西)が吹くので、飛行機が航続距離を延ばすことができないように思える。
しかし、冬季は偏西風が南下するのでハワイ近辺でもうまく利用できるかもしれない。
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コメント
今回のフェリーフライトの最大の空港間距離は3,900kmだが、余裕を考慮すると4,500km~5,000kmを飛行しないといけない。これは、MRJの航続距離3,310kmよりも約1,000km以上も長い。
- 乗客が乗らない分、約5トン~6トン軽量化している。最大離陸重量から約12%軽量化したことになり、航続距離は5%~10%程度伸びると考えられる。
- さらに、ハワイ近辺では冬季に偏西風(西から東へ吹くジェット気流)が南下するため、偏西風を追い風に利用できたのかもしれない。この場合、航続距離は10%~20%程度伸びると考えられる。
机上計算では、航続距離が最大30%伸びた可能性がある。つまり、MRJの航続距離3,310kmから30%延びて4,300km程度になった可能性がある。
当ブログの推定
アメリカは小規模航空会社を保護するため、リージョナルジェット(小型機)の最大離陸重量を39トンまでに制限している。アメリカの大手エアラインは39トン以下の機材を運用できない。
MRJはこのリージョナルジェット市場に参入するため、最大離陸重量39トンで開発してきたと思われる。
しかし、この39トンの重量制限が40トンに緩和されるとの予想もあり、MRJは40トン制限に対応できるよう大きく設計されている可能性がある。
つまり、MRJは当初から燃料タンクを拡大するスペースがあり、フェリーフライトではそこに追加で多くの燃料を積載し約3,900kmを飛行した可能性がある。
逆に言うと、MRJは本来3,900km程度飛行できるよう設計されているが、アメリカの39トンの重量制限に対応するため燃料タンクを縮小して、軽量化している可能性がある。
なぜアメリカで飛行試験をするのか?
MRJの試験飛行は5機の試験機を利用して、合計2,500時間実施する。このうち、4機はグランド・カウンティー空港で実施し、残り1機は日本国内で試験する。
グランド・カウンティー空港は4,000m滑走路が4本あり、天候、風向きに左右されず試験飛行ができる。
また、日本の空域は混雑しており、試験飛行を実施するには、定期便航空機の飛行しない時間、コースを利用するしかない。そのため、離陸待ちが発生し効率的な試験飛行ができない。
試験飛行は2年かかるので、開発を予定通り進めるためにはアメリカでの試験飛行の方が有利と思われる。